引地台中学校クラシックギター部の定期演奏会に行ってきた

JGA コンクールでおなじみの中学校、大和市立の引地台中学校さんのギター部。

コンクールの演奏はもう十年以上前から何度も聴いていたけど、定期演奏会は実は行ったことがなかった。スケジュールの調整がついたので初参加。3 月 29 日、土曜日のお話。

いりぐち

コンクールでは出場している中学校の中でもばつぐんの演奏を披露してくれるこの引地台さん。毎年のように舞台袖で聴いていても、年々めきめきと腕を上げている感があって、ここ数年は聴くたびに引地台さんてこんなにレベル高かったっけなあと思わされる、そんな具合。

今回の定期演奏会は、コンクールで演奏の核になっていた三年生が抜けたあとでの開催。だから当然ながら全体の演奏はコンクールのときほどのレベルではなかったけれど、部全体の “成長過程” がよくみえて、次のコンクールがひじょうに楽しみになるような、そんな演奏会だった。

“松明の火” は去年のコンクールにむけて弾き込んだだけあって、今回のプログラムの中ではいちばん聴き応えがあった。身体が曲を覚えているのかなと、そうなるとあとは勢いで押せるし、そしてこの曲の場合はそういう弾き方がよく合う。

“松明” の前の曲、講師の O 氏が指揮をふる今年のメイン曲らしい BWV 542、通称 “大フーガ” は、まだだいぶたどたどしかったけれど、これが次のコンクールでは “松明” のレベル以上の演奏になることはまず間違いがないわけで。いいですね、先が楽しみ。

この O 氏、4 小節のレッスンに 2 時間かけたとかかけないとか、細部へのこだわりがひじょうにつよい先生。これまでの弾きっぷりや弾けっぷりをみると、引地台さんは、荒く全体を短時間で作ってからあとで細部に取り組む、のではなくて、最初から時間をかけてじっくりゆっくりじわじわと錬成していく、そういう進め方のほうが伸びるタイプなのかなあと、そんな感があった。そうすると O 氏のじわじわこだわり型の教育方針(?)との相性もよさそうで、これはぜひ何百時間でもかけて至高の大フーガにしていただきたいところ。

そして一年生の学年合奏が思いのほかすてきな仕上がり。曲がよいのか編曲がよいのかわからないけれど、『こう弾こう』という意思があると自然と合ってくる。大フーガは複雑な曲だけれど、徐々に慣れていって、こういう “わかりやすいポップス” と同じ姿勢で取り組めるようになると、部全体にとってもつよいエネルギィになりそうだなと。

反面、重奏は全体的にちょっと危なっかしかった……。

手作り感!

とはいえ、中学生の部活となると『たのしいは正義』みたいなところがあって、演奏者が楽しければそれだけで勝ち! 合格! っていう側面も多分にある。

部活というのはおもしろいもので、基本的なモチベーションは『楽しいから』というただそれだけの、といいつつ実は “最強” の欲求が源泉。だからそういう組織がつくった成果に対する評価は、上手か下手かよりも、成績や品質よりも、なんだかんだいって単なる当人たち自身の “満足度” がもっとも重要なのではないかしら、みたいなことを考えている。

現実問題、中学生というのはつい最近まで小学生だった方々であるわけで、体格やら筋力やらの身体の発達が成人と同じ楽器を扱えるところまで行きついていない、ということもありそう。

それでもこれだけの人数が好きであつまって楽しそうに活動しているというのは、ウマいヘタ関係なく、それだけでやっぱり “最強” なんだなあと、そんな感想。

8 月、コンクールの舞台、MUZA 川崎のホールで会えることを楽しみにしています。

いちむじんの結成十周年記念コンサートに行ってきた

ぼくがいちむじんさんを知ったのは、2007 年のこと。

弊団体の演奏会のゲスト として来ていただいて、そこで いっしょにギターを弾いて から、もう 6 年以上が経ったようで。早いものですね。

そのときは舞台袖で、あるいは舞台上で、おふたりの音に触れました。いいなあかっこういいなあきれいだなあと、ぽわぽわと聴いていた記憶があります。

当時はまだピックアップシステムを使うこともなく、立ってギターを弾くこともなく、純然たる “クラシックギターの二重奏” というスタイルでした。

そんなおふたりの、結成十周年記念コンサートに行ってきました。3 月 7 日の金曜日、会場は東京芸術劇場の小ホール。

ホールに入って、ステージ上にスピーカが立っているのとシールドが椅子に掛けられているのと足台が無いのとをみて、おお、”これ系” になったのか、と思いながら着席。前から二列目のど真ん中でした。よい席。

会社を早退して腹ごしらえしてから会場へ

『最近彼らは立って弾く』という事前情報を得ていたのである程度予想はしていたものの、繰り広げられたのは、かつてのクラシッククラシックした感じとはひと味もふた味もちがう世界。

音の出し方とか PA の使い方とか、聴いていてぼくの中でイメージが重なったのは意外にも Rodrigo y Gabriela さんでした。あの方々から荒々しさをぐっと減らして、スピード感はそのままにクラシックギタリスト的な丁寧さと真面目さをうまい具合に混ぜ込んだような、そんな感覚。曲調が激しくても音の作りは丁寧だったし、しっとりなところのうたいかたはクラシックギタリストだけあってばつぐんにさすがな感じ。

根はクラシックだから落ち着いて聴けるけどでも音楽は激しい、みたいな、おもしろいおとしどころのハイブリッドな音楽でかっこうよかったです。

お花がおいてありました

しかしやはりクラシックギターの PA はむずかしそうですね……。とくにピックアップを使うとなるとなおさら。

いちむじんさんオリジナルの激しい曲では PA はよく合っていて、生音では出せない迫力でとてもよかった ((うっすらハウり気味だったのがすこし気になったけど……))のだけれど、しっとりした曲とか “クラシックギター” 用の曲とか、これは生音で聴きたかったなあと思うものもちらほらありました。RUI とかとくに……!

ちらし

クラシックギターの二重奏って、生音で緻密に組み立てる響きとか、息を飲むような緊張感とか、そういう音がだいすきなのだけれど、PA ありでがっつりアツいエネルギィをぶつけて弾くのもオイシイんだなあって思った演奏会でした。

立って弾くのに慣れきっていないのかもと思えるシーンもちょくちょくありましたが、”いちむじん” スタイル、これからが楽しみです。生音でコテコテのクラシックな二重奏コンサートをやるというなら、それはそれで涎を垂らして行きますが!

そして運のよいことにこんな展開になりました。

到着お待ちしています!!!

全国職場バンドフェスティバルで、さいこうにイケてる吹奏楽を聴いてきた

全国職場バンドフェスティバルというイベントに誘われたので行ってきた。3 月 2 日の日曜日、会場はサントリーホールでした。一般人が上に乗れる機会はそうそうない本気で日本有数のホールですが、職場で吹奏楽をやっていれば乗れるなんてずるいと思います!

プログラム

白状すると、吹奏楽って、出身中学やら出身高校の部活のものくらいしか知らなかったのです。それ以外にもたぶん聴いてるはずなんだけど記憶に残っていなくて。で、吹奏楽部の演奏って、演奏中に立ったり座ったりする “吹奏楽っぽいアレ” とかけっこう “やらされてる感” があって、いまいちイケてないなーっていう印象、偏見が抜けなかったのだけれど。

いやはや、なんていうかもうごめんなさいです。吹奏楽ってほんとうはこういうものだったのね。ここまでアツい音楽だとは思っていなかった。うまいところは卑怯なまでにうまい。さいこうでした。繊細な表現も迫力のあるダイナミクスもリズム感も、音づくりも。

全国職場バンドフェスティバルというのは、全国で活動する職場バンド、つまるところ企業の中にある吹奏楽部みたいなの集まって、合同で演奏会をしましょう、というもの。今回で 3 回目? らしく、まだ歴史は浅いもよう。それでもバターサンドの六花亭さんからトヨタさん、NEC さん、ソニーさん、天下のヤマハさんまで 11 団体も集まって、たっぷり 4 時間も演奏があったので、ひじょうにボリューミィでした。顔ぶれをみるかぎり、来年以降もながく続いていくイベントになるんだろうと思います。

何回もきてるけど来るたびに最高のホールだと思う

そんなわけで、ぼくは吹奏楽に関してはドがつくほどの素人だったので、プログラムを見ても有名どころ以外は知らないのばかりだったのだけれど。最初の団体からわりと『あれ、吹奏楽ってこんなイケてるものだったんだっけ』みたいな戸惑い感あふれ出る感じでした。ほんとうはかっこうよいものなんですね、吹奏楽。

107 人でステージに乗った曲もあって、これが圧倒的なダイナミクスと派手な指揮でさいこうのパフォーマンスでした。指揮が派手でも演奏がしょぼしょぼだとひじょうに滑稽で嫌味な舞台になる ((そんな演奏はギター合奏でいくつも観てきたのよね))ものだけれど、演奏ががっつり指揮に合わせて派手にやってくれていたので、相乗効果ですごく濃密でエネルギッシュな空間になっていました。

吹奏楽における指揮者の役割、演奏者や音楽との関係、距離感は、いわゆるオーケストラの指揮のような “崇高な” ものとは、すこしちがうようです。もっと距離が近くて、即時性があって、ほどよいパフォーマンスであること。いいものですね。聴衆側に音楽が寄ってくる心地よい感覚があります。

吹奏楽って、コテコテのクラシックでもなく、ポップポップしているわけでもなく、ほどよくフォーマルでほどよくカジュアルなので、”音楽” の中でもおもしろい位置にいると思います。オーケストラとも軽音楽ともちがう、いいとこどりしたオイシイ位置とでもいうか。

この “ほどよくフォーマルでほどよくカジュアル” な居心地のよさが演奏から感じられると、吹奏楽っていうものがとたんに親しみやすい世界になるのかもしれないですね。中学や高校の吹奏楽は、たぶんこの辺の空気が全然なくて、ただ音を出しているだけだったりがちがちに緊張しているだけだったりで、それでいて立ったり座ったり右むいたり左むいたりスイングしたりの “ノッてる演技” をしようとしちゃうものだからよくなかったのかなと。この違和感のおかげで楽しめなくて苦手だったのかなと、そんなことを考えた。昔の感覚だからあんまり覚えてないけど。

いりぐち

“ダンス” で攻めてきたソニーさんのワルツは、とてもワルツワルツしていてすてきでした。ワルツの三拍子をワルツらしくうたいあげるのって難しいのよね。ズンチャッチャ、とよくいわれるけれど、この『ズンチャッチャ』にこめられた一拍めと二拍めと三拍めの感覚の違いって、おそろしく深いものであるようで。頭でわかるのではなくて、ワルツだけにほんとうに身体でわからないと演奏できないと思う。同じ曲をギター合奏でいままさに練習中なこともあって、はからずもひじょうによいおべんきょうになりました。こううたえばいいのね、ぼくもがんばります。

極めつけは大トリのヤマハさんです。パンフレットには『なかには自身で制作した楽器を演奏する団員もいる』とか書いてあるし、MC にインタビューを受けていた指揮の須川先生も『8 割くらいが楽器の設計か研究か制作をしているひと』みたいなことをお話されていたので、はじまる前からもはや卑怯というかチート感はんぱなかったのだけれど、演奏もやっぱり卑怯なまでにはんぱなかった。

一曲目はもともと分かりにくい曲だったこともあってふわっと終わってしまった印象があって、ヤマハさんでもこんなもんなのかなーって感想をもったのだけれど。

二曲目の Sing Sing Sing の、冒頭のパーカッションが入った瞬間、『あ、これ本気ですごいのくる』と直感で確信して、そこからテンションあがりっぱなし。そして事実、本気ですごかった。

おひるの様子です

Sing Sing Sing という曲自体、じつはあまり好きではなかったのです。というのも、ぼくが高校生のときにギターで弾いたのがひじょうにつまらなかった(ごめんなさい)から。吹奏楽の定番なのは知っていたけれど、だからプログラムをみたときもさいしょはこんな定番曲じゃなくてもっとなんかイイやつやってほしいなーみたいなことを思ったわけですよ。

が、けっきょく、ぼくの中にある Sing Sing Sing 像がスーパーしょぼしょぼだっただけのようでした。だからヤマハさんの聴いて、マジかよこんなイケてる曲だったのかよこれ、ぼくらの高校のときのアレなんだったんだよ、時間かえしてよクソが、みたいなそんなかんじ。もう実はわりとこっそりひそかに涙目になりながら聴いてた。かっこよかった。プリマさんごめんなさい。

うまく言えないけど、”音楽” による “表現” とはこうあるべきだ、みたいなお手本を見せつけられた感覚でした。まじめな部分も、あそぶ部分も、隅から隅まで余すことなく、演奏者ひとりひとりの全身から “表現欲” みたいなものがむわんむわんと押し寄せてきた感じ。ほんとうに、ああいう演奏がぼくもしたいと、切に。

ドラムさん、圧巻でしたね。何をしてももうあのひとなら許されるよな、みたいな圧倒的なパフォーマでした。高ぶりすぎてジャンプしちゃうとかかっこいいです。惚れた。

おしゃれです

音楽をやっているひとの『他団体の演奏会に出かける』という行為には、いくつか種類があります。自分がやっている音楽と同じ分野の演奏会には比較的気軽に足を運ぶ気になるけれど、あんまり関係のない分野の演奏会って、なかなかいく気になれないとか、よくありますよね。

でもやっぱりこう、自分のと同じ分野かなんていう狭い枠で終わらないで、”音楽” っていう枠でとらえてあっちこっち行きまくりたいし行きまくるべきだと思いました。聴いただけ世界は広がるし、広がっただけこれまで自分が観ていた世界の狭さにも気がつくものです。自分の演奏が現状のままでよいならどうでもよいのだけれど、そうでなくてもっといろいろな音が出せるようになりたいのであれば、いろいろな音は聴かなきゃです。自分が井の中のなんとやらであることを自覚するべきだし、それ以前にまずは自分がただの蛙である可能性を少しでも考えないとです。

ここ何年かいろいろと足を運ぶようになってるけど、まだまだいろいろあるなーと、そんなことを思った日曜日でした。よい日でした。来年も行きたいです。

新堀芸術学院の春期定期公演で、ギター合奏と PA について考えた

ちょっと前の話になるけれど、2 月 11 日に、専門学校国際新堀芸術学院に所属する在校生の有志で行われる定期公演 ((“有志” という概念に “定期” はあまり似合わない気がしたけど))に行ってきました。

本家たる新堀ギターフィルハーモニーオーケストラ(N フィル)とか新堀ギターアンサンブル(NE)の公演には何度となく足を運んでいるけれど、新堀学院の学生さんたちの演奏を聴く(観る)のは初めての機会。”学生版新堀” という意味では NKG のコンクールでの演奏が近いのだろうけれど、あれは新堀グループの先生方が指導してるってだけで、新堀学院の学生というわけではないですし。

さて、新堀さんところの学生ということは、将来的に N フィルなり NE なりを(少なからず)目指している方々である(たぶん……)わけで、そういう意味ではこれは N フィルなり NE なりの “あの” 演奏が作られる “途中経過” が観られる演奏会でもあるわけです。学生が “あれ” を目指したときにどうなるのかというのは NKG のコンクールで観てはいたものの、はてさて本家でがっつり学んでいるとどうなるのかなあと楽しみなのでありました。

が。

結局、PA ががっかり品質すぎて、演奏云々以前のところで耳が止まってしまいました。

このエントリは、そんなお話です。ギター合奏と PA について。

パンフレット

エレキギターに代表される “電気的な増幅ありき” の楽器とちがって、クラシックギターはそれ単体で電気的な増幅なく音楽を作れる楽器です ((もちろんどちらが優れているという話ではなく、そういう楽器であるというだけの話です、念のため))。だからクラシックギターを “クラシックギター” として使う以上、本来は PA が無くても音楽として “完成” させられるはずだし、”完成” されているはずでした。

PA が無くても完成されているのだから、それでも PA が登場する理由は、”生音だと小さくて聴こえないから” というごくごく常識的なところに行きつくはずで、そうすると PA に求められる仕事は、既に “完成” されている音楽を、極力 “そのまま拡大する” ことだけです。ここでは過度な脚色は御法度で、『演奏者が作った響き』『演奏者が意図した響き』をそのまま観客席に届けることだけが考えられるべきだ、というのがぼくの考え。

今回の公演で入っていた PA では、全奏者のギターすべてにコンタクトマイクをつけていました ((新堀さんところは今回に限らずだいたいこのスタイルですね。人数が多いときは前列とか主要メンバにだけマイクをつけてあとは生音です))。スピーカから出てくる音は当然、全ギターにつけられたコンタクトマイクの拾った音を、PA 担当さんがコンソールでミキシングしたもの、です。ホールのキャパシティを考えると、生音が届くのは客席の前のほうの一部くらいで、その一部ですらスピーカからの音のほうがおそらく大きく聴こえるから、生音の出番は今回はもはや無いようなものです。

さて。

演奏者が舞台上で、至高の音楽を至高のバランスで作り上げていたとします。演奏者は自分の耳と感覚を信頼して、隣のひとといっしょに、指揮者といっしょに、向かいのひとといっしょに、舞台の空気の中に自分の音をそっと置きます。そこにはギターならではの芳醇な響きがあって、そして独奏では味わえない合奏重奏ならではの重厚さや繊細さがあって、それはさらにホールの自然な残響を伴って会場中にひろがります。その空気の中に自分が居る感覚、空気を自分が作っている感覚こそが至高で、また演奏者のこのうえない喜びと快感と、楽しさの源泉です。

ところが、PA のマイクは、そういうオイシイ響きはあまり拾ってくれません。コンタクトマイクですから、ギターに片耳をぺたっとくっつけて聴いている状態に近い。ギターに密着しているから、拾うのはギターから外に出た音ではなくて、生々しい “振動” そのものです。だから本来拾わなくてよい音、離れていれば聴こえないのに密着しているからこそ聞こえてしまう音、本来楽器として響くようにはできていない音——たとえば布のこすれる音とか、ギターにさわってぺたぺたする音とか、弦をこする音——まで無関係に拾ってしまいます。そしてそれはギターの音だろうがただのノイズだろうが、機材にとっては無関係で、ひとしく拡大されてスピーカから流れてきます。さらにマイクはモノラルで、スピーカは二つあるから、無理矢理説明すると、スピーカのコーンの位置に、ギターにつけられたマイクの位置の空間が全ギター分重なり合って存在している状態、みたいな感じです。そしてそれが左右にひとつずつある。さらにマイクからスピーカにいたるまでに通る機材ごとの特性で、特定帯域ばかりが強調されたりある音が全然拾われなかったりなどの影響も加わります。

だから、舞台上で作られているひびきと、スピーカから流れている音は、コンタクトマイクだけをつかってどうにかしようとする限り、もうまったくの別物です。舞台上で生で作られる音は、舞台上で生で聴いてこそ最高の音で、そしてそれはマイクを通してスピーカから流したときに最高の状態になる音とは、まったく違うものです。人間の耳にきこえるそのままを電気的に取り込むのはひじょうに難しいのです。逆に言えば、人間の耳とそれを解釈する脳は信じられないくらい優秀です。

しかも合奏です。演奏者同士で舞台上でどれだれ連携してどれだけ繊細にバランスのとれた音を出していようが、PA 担当さんのミキサにはギターごとに別々の音として入ってきます。それをどう料理するかは PA 担当さん次第で、客席で聴こえる音は、だから “舞台上でつくられた音” ではなく、あくまで “PA を通した音” でしかありません。PA は、演奏者の緊張感やバランス感覚とはまったく別の次元で存在します。観客に聴こえる音のすべてを操る、いわば神です。

マイクが拾ったそのままを混ぜて流されたら、ひたすらにぐちゃぐちゃです。何を弾いているのかわかったものではなくなります。

だからこそ PA には、精緻なバランスで左右へ振り分けたり、重なって混ざってしまう音がきれいに分離するようにイコライジングしたり、要らない音を削ったりして、舞台の上で作られているはずの音を再現する、そのように “細工” するスキルとセンスと責任が求められます。すでに完成されている音をそのまま届けるというのは、単にマイクから入ってきた音をそのまま垂れ流せばよいというものではないのです。完成されている音を、”そのままであるかのように聴こえるように” 調整してスピーカから流す必要があります。

帰りに食べた

あの組織が、ぼくみたいに『PA がなくても音楽として完成している』という考えではなく、『PA があって初めて音楽として完成する』という考えでいる可能性もあります。クラシックギターを、旧来の “クラシックギター” としての枠組みにとらわれずに、『電気的な増幅ありきの楽器』として新しい使い方を模索しているというのであれば、それはそれでおもしろそうだし、先が楽しみな変化です。

が、そうならそうで、なおさらそれなりの音作りをしてほしかった。あれではただ『生だと音小さいからマイクつけるね』『全部に同じマイクついてるし全部同じ音で出しておけばいいよね』みたいな、雑な思想にしか見えませんし聴こえません。哲学を感じない、みたいなアレです、イケてないです。

意図的にリバーヴをかけていたようにも聴こえました。音楽ホールにおいては禁じ手とも言える気がします。響きって、いやいやそういうのではなくてね、という感覚。もしかしたらフィードバックの結果かもしれないけれど、それならそれで調整はするべきで……。

そしてギタロンの PA がとくにひどかった。ギターアンサンブルを録音したことがあるひとならだれでも一度は悩まされるあの超低音域のぼわつき、耳に迫り来る音圧のことです。今回はあのぼわぼわぼわぼわしたのが大音量でホール中に響き渡ったおかげで、それ以外の音が完全にぶちこわしでした。マイクにマイクの性能以上のことをさせてはいかんのです。

おいしかったです

もしあのコンサートが、中の方々にとって『大成功』で、そして内部で『とてもきれいな音だった』と評価されているとしたら、その中にいる学生さんたちは、本来の “クラシックギター” としてのクラシックギターの音づくり、響きづくりを、まともに学べないことになってしまう気がします。純粋に “クラシックギター” を学びたい方々にとっては向かない環境なのかなと。新しい楽器としてのクラシックギターを学ぶなら、逆にあそこしかないんでしょうけれど。なんていうか、『”クラシックギター” の専門学校』ではなくて、『クラシックギターを含む様々な楽器群を道具として使った総合芸術の専門学校』っていう印象でした。

“クラシックギター” の音づくりはそんな感じだったので、客席にいたまま『マイクで拾われる前の響き』を脳内で取り出すのも難しくて、演奏面でのコメントはとてもしづらいという結果になりました。

ただ、断片的に見えた限りでは、独奏は丁寧だったし、合奏も楽しそうで、たぶん舞台の上の彼らにとっては『よい音楽』ができていたのだと思います。本来は、そういう『よい音楽』を、練習とは比べ物にならないほどの響きで楽しめるはずの場がこういう公演でありコンサートホールであるはずなのだけれど、それが PA に乱されてしまってひじょうにもったいない ((舞台上にモニタスピーカもあったので、演奏者も演奏しにくくなってたのではないかしらという心配もありました))なあと、PA なしで聴きたいなあと、そう思わされるのでした。生音でじゅうぶんひびくホール ((藤沢校の楽友ホールもギターに向いてない音だし、環境がなかなか難しいのかな))で、しっかりがっつり生音で演奏会をしてみてほしいところです。

皮肉なことに、エレキギターやドラム、キーボードなどの演奏、いわゆる “バンドサウンド” のときの PA はとてもイケていました。正直、”クラシックギター” は使わないほうがすっきりするんじゃないの、とさえ。

学生の手作りな演奏会だし、そこにそう多くのことを求めてはいけないのも承知しているけれど、PA 卓に立っていたのがおじさまだったので学生云々はあまり関係がないのかなと。もしかしたら PA 卓のおじさまは学校側から渡される 2 ミックスを単に流すだけでいいですって指示されたホール側の方だった可能性もありますが。

ギター全部にマイクをつけるのではなくて、例えば三点吊りの音をそのまま流すとか、舞台手前にアンビエンスマイクを立ててその音を流すとか、そのほうがずっとよかったのではないかと思います。”マイクの音” ではなく、ぼくは “演奏者の音” が聴きたかったです。演奏者個人個人のポテンシャルは大きそうだっただけに、PA の残念さが全部を残念にしてしまっていて、それがとても残念でした。

ギターは音量の小さい楽器ですし、大きなホールで演奏をするなら PA は欠かせません。それでもよい PA は、PA の存在を感じさせないほどにほんとうによいものです。ギターひとつひとつの音がそのまま大きくなったような、そういう PA も世の中にはたくさん存在します。

演奏を活かすも殺すも PA 次第と、えらいひとは言いました。PA が悪ではなく、演奏の魅力を最大限に引き出すものであってほしいと、そういうことを考えた一日でした。

ぼくが 2013 年に聴いたり観たり出たり手伝ったりした演奏会まとめ

いろいろいった気になってるけどどれだけ行ったんだっけね、というまとめ。まとめたら思っていたより行っていたのでうれしい。

来年も同じくらいかそれ以上には行きたいけどどうなるかしら。

横浜みなとみらい大ホール

1 月 20 日(日)- 原善伸デビュー 40 周年記念ギターリサイタル@ヤマハホール

先生にお誘いを受けて聴きに。歴史を感じる演奏。ベテランがベテランたる理由はやはりあるのだと思うことしきり。

2 月 24 日(日)- M’s class ピアノ発表会@大倉山記念館

音楽の才能があふれすぎている高校生の友人がピアノの発表会に出るというので聴きに行ってきた。ぎたさんのぱとり勢もゲストで登場。ピアノの弾きっぷりがかっこよかった。

2 月 27 日(水)- 横浜国立大学音楽専門領域卒業演奏会@横浜みなとみらい小ホール

作曲ゼミの友人が卒業制作で書いたギター五重奏曲の演奏者として参加。あと録音やさん。縁ってのはおもしろいものですね。よい曲だったしもうひとりの作曲ゼミの子の作品もすごくイケてた。平日だったから会社休んだ。

3 月 31 日(日)- 北杜高校ギター部スプリングコンサート@北杜市オオムラサキセンター

ずっと行きたかった北杜さんの演奏会。ようやく行けてほんとうに楽しかった。いろいろとごあいさつもできて、車を出して遠出した以上の価値はあった。

4 月 4 日(木)- 多摩高校ギターアンサンブル部定期演奏会@横浜みなとみらい大ホール

かつて自分がいた部活の定期演奏会。会社を休んで朝から運転手兼写真撮影担当兼録音担当。毎年の楽しみのひとつ。来年からはお客さん?

5 月 13 日(日)- ギターフェスティバル@代々木上原けやきホール

長谷部先生の門下生の方々の演奏会。ゲストのクアトロ・パロスさんを聴きに。さすがのクオリティ、安心して楽しく聴ける四重奏。

6 月 8 日(土)- 東京農業大学&専修大学ジョイントコンサート@多摩市民館

フォロワさんが出るとのことだったので聴きに行ってきた。ザ☆大学のノリ! みたいな演奏会。たのしそうだった。ちょっと形式をだいじにしすぎな感もあって、もっと自由にしていいのになあとは思った。

6 月 9 日(日)- NHK 交響楽団定期演奏会@NHK ホール

いわずもがな。聴きに行きました。惑星さいこうです!

6 月 12 日(水)- サントリーホール室内楽アカデミーゲストコンサート@サントリーホールブルーローズ

プロアマ混在でいろいろなひとがいろいろ弾く室内楽の演奏会を聴きに。アマチュアといっても音大生なんだけど、それにしてもプロとの差が……! はからずもベテランと若手の聴き比べになってしまった感。

7 月 13 日(土)- 洗足学園音楽大学 NATSUON! 2013 クラシックギターコース演奏会@洗足学園音楽大学

録音担当兼お客さんとして。音大生によるギターアンサンブルというめずらしい演奏会。各人のポテンシャルはすごかったけど、楽器にも新しい先生にも慣れていない感が出てて、ちょっと新鮮。

7 月 13 日(土)- ソニー吹奏楽団定期演奏会@大田区民ホールアプリコ大ホール

聴きに。上の洗足さんと同じ日だったので、朝は洗足で録音の準備して、こっちに移動して数十分だけ聴いてまた洗足に戻る、というスケジュールだった。エヴァンゲリオンを聴けたので満足。吹奏楽もかっこいいですね。

8 月 25 日(日)- 全国学校ギター合奏コンクール@横浜みなとみらい大ホール

毎年の楽しみのひとつ。例年どおりに録音やさん兼ステージ関連いろいろスタッフとして参加。出場校の中高生にも知人友人が増えてきたので、どの学校も他人の気がしない。袖でヘッドホン越しに音を聴くのが毎年恒例。来年のぼくはどういう形で関わるのかしら?

9 月 7 日(土)- 多摩高校ギターアンサンブル部文化祭コンサート@多摩高校

演奏を聴きに。引退した 3 年生やそれより上の OB 勢ともわちゃわちゃできるよい機会。たのしい。

9 月 22 日(日)- 相模原中等教育学校クラシックギター部オータムコンサート

演奏を聴きに。実は構内に入るの初めてだった。ここでまたお知り合いが増えました。『もしかしてくろいさんですか!』『はい!』がたくさん。うれしい。

10 月 6 日(日)- 全日本ギターコンクール合奏部門学校の部@江戸川区総合文化センター

NKG 主催。昔は行くとアウェイ感すごかったし社会科見学感あったけど、最近は平気な顔をしてこっそり客席におさまっている。目指す方向がいろいろちがっていておもしろい。行くといろいろ考えてしまいますね。そして語り合う夜の Togetter ができあがる。

10 月 6 日(日)- アコースティックギターサミット 2013@めぐろパーシモンホール

今年からはじまったイベントらしい。誘われたのでお客さんとして行ってきた。昼間からいろいろワークショップなど開かれるもよう。夜のコンサートメインでいった。普段絶対いっしょに並ばないであろうメンバが順に演奏する感じ、贅沢感はんぱない。来年も行きたい。

10 月 13 日(日)- アンサンブル・ジターノオータムコンサート@武蔵ホール

フォロワさんにお久しぶりに会いに行きがてら聴きに。かわいいきれいなホールだった。少人数でめいっぱい楽しむ感覚、観ていてたのしい。ぼくらのコンサートにも何名か来ていただけたのでうれしいです。

10 月 14 日(月)- 内本信裕ギターリサイタル@和光大学ポプリホール鶴川

高校の先輩のデビューコンサート。ドイツでギターを学んでいるだけあってさすがの安定感。きっちりキメてきてきもちがよい。二重奏も三重奏もたのしかった。

10 月 19 日(土)- イ・ムジチ合奏団@サントリーホール大ホール

もう何回目かわからないけど何回聴いてもさいこうだ!! 生音とはかくあるべき、というのを強烈に魅せつけてくれる。コンサートマスタが完全にアンセルミさんになって、また雰囲気が変わってきてイケイケ感あって楽しいし、アンコールの赤とんぼはもうなんていうかほんとうに全身にしみわたってすばらしい。ああいう音が出したいなあと心の底から思える音。お金かかるけどまた日本に来たらまた行く。

10 月 27 日(日)- 日本ギター合奏フェスティバル@練馬文化センター小ホール

クアトロ・パロスさんと UnisOno さんを聴きに。といいつつほかにもいろいろオイシイ合奏団があって見た目にもおもしろい。加藤先生の団体に惹かれた。この日の夜は多摩・相模大野・所沢・芝各校の OB やら元講師やらが入りまじった飲み会になっておもしろかった。

10 月 28 日(月)- クアトロ・パロスジョイントコンサート@GG サロン

クアトロ・パロスさん、東京 GE さん、前日気になったザ・ステアさんを聴きに会社帰りに寄った。オンゲンカーさんは初見だったけど、いちばん右の彼がイケてた。2 曲目かっこよかった。ゲストのオルガさんは私服感がつよくて、中島先生のほうが目立ってたよね……? パロスさんが演奏した佐藤弘和さん作曲の雲の詩って曲がさいこうでした。ああいう情景描写系は大好物です(三千院とか)。

11 月 3 日(日)- JAEM 秋期ギター発表会@和光大学ポプリホール鶴川

普段いっしょに合奏をしている方々や関係各位の、普段とはちがった一面が観られる場所。お客さんとしてお邪魔しました。レベル感いろいろだったけど音はよい。ぼくも出ようかなとか。

12 月 1 日(日)- 芝学園ギター部ウィンターコンサート@芝学園

これも前からいちど行ってみたかった演奏会。東京タワーのふもとまで聴きに。昔聴いたときの強烈なインパクトはやや薄れた印象。ちょっとおとなしくなった? ノリはいいし観ていて楽しいけど、魅せどころってののつくりかたがむずかしいそうだなと。そして音響面がやっぱり場所柄きびしい……。自分の学校の中に演奏会が “できてしまう” 施設があると外に出にくくなるってのはあるのかもだけど、響きのいいホールでやるとたぶんもっと音よくなるんじゃないかしら、と。でもなんていうか、心の底から楽しんでます感が出ててすごくよい。たのしい。

12 月 8 日(日)- 洗足学園音楽大学 FUYUON! 2013 クラシックギターコース演奏会@洗足学園音楽大学

夏につづけて冬の演奏会を聴きに。夏のころの “不慣れ感” はだいぶ薄れて合奏ならではの音のつくりかたにもなれてきたのか、安定感があった。もう少し物理的に高音系の楽器が増えるとバランス取れそう。この日の竹内先生の Surge III 全楽章は日本初演。Surge V で落ち着きを見せた “竹内節” がややおとなしめながらも復活していて、よい曲だった。

12 月 15 日(日)- 新日本ギターアンサンブル ギタークリスマスコンサート 2013@和光大学ポプリホール鶴川

出演。ひたすらに楽しかった。詳細は 前のエントリ で。

12 月 21 日(土)- 新日本ギターアンサンブル ギタークリスマスコンサート 2013 シルバーマウンテンオープニングコンサート@洗足学園音楽大学

出演。攻略しがいのありそうな会場。大学側のスタッフさんが大学として公式に録画やら録音やらしてくれていて、そのうち YouTube に全編 1080p で載るらしい。うれしいやらこわいやら。

以上!

抜けがあるかもしれないけど、今のところぜんぶで 25 でした。平均でひと月に 2 回、なかなか充実してた感があってよいかんじ。行ったら行っただけ世界も視野も広がるし、純粋に楽しいし、そしていろいろお勉強にもなる。弾き方、音のつくり方。ギターにかぎらず、ピアノだって弦楽だって吹奏楽なんだってギターに活かせる要素ってあるはずだし。

来年もぶいぶいいろいろなところに行きたいので、こんなのあるよこんなのやるよ、あんなのあるらしいよ、その他もろもろお気軽にお声かけください。万難排してどこでも行きます。