はじめに
前回のエントリ で、AfterShokz のフラグシップモデルである Aeropex の音質を紹介しました。その中では、骨伝導であることそれ自体や防水・防塵のメリットは非常に大きい一方で、特に マイクの音質については厳しさがある 旨の記載をしていました。
根本的には Bluetooth のプロファイル(HFP)の仕様の限界があるので、有線のマイクと同等の高音質にはどうやってもできない(サンプリングレートが 16 kHz なので波形は 8 kHz で頭打ちする)のは仕方がないのですが、それにしても常用は厳しいと言わざるを得ない音質でした。
マイクの性能を重視するのであれば、Aeropex ではなく通話に特化した OpenComm の発売を待った方が良さそうです。
AfterShokz Aeropex の快適さと、音質の正直なところ | kurokobo.com
今回、この中でも言及している、通話に特化したモデルであるところの AfterShokz OpenComm を入手したので、主にマイクの性能の観点で、Aeropex と比較しました。
結果として、OpenComm のマイクは、Bluetooth 自体の仕様上の音質の限界はあるものの、Aeropex のそれとは比較にならないくらい充分常用できるレベルで音がよく、総じて満足できそうでした。
OpenComm で通話をする
聴感上、たしかに通話に特化したモデルだけあって、Aeropex のマイクとはまったく異なり、一言でいえば 充分に日常的に使えそう でした。もちろん、有線接続のヘッドセットやきちんとしたマイクと比較してしまうと、やはり高音域の欠損に起因する “こもり” ははっきりと認識できてしまいますが、会話に支障が生じたり、相手に音質面で強いストレスを与えたりする心配はほぼないだろうと思える範囲内です。音質に敏感でなければそこまでは気にならない程度でしょう。
前回のエントリ と同じ方法でマイクの性能を確認すると、Bluetooth の限界(8 kHz までしか使えない)の中ではあるものの、充分な再現性が得られると言えそうです。原音(フリーのナレーション素材)の周波数特性と比較した結果がこちら。
Aeropex と比較すると、劇的な向上が見られます。通話用を謳うだけのことはあります。
もちろん、有線接続のヘッドセットのマイクと比較してしまうと、8 kHz 以上が失われる点はやはり気になってしまいます。
前回のエントリでも少しだけ言及していますが、この 8 kHz の壁は、Bluetooth の通話用プロファイル(HFP)に起因しているため、Bluetooth 接続のヘッドセットである以上は製品を問わず不可避です。HFP(のバージョン 1.6 以降)で使えるコーデックはサンプリングレートが 16,000 Hz であり、理論上、8 kHz 以下の音しか伝達できません(同じ HFP でも、バージョン 1.5 まででは 4 kHz までとさらに劣化します)。
実際のところ、通話で必要な音質は、極論すれば発話した内容が言葉として認識できる程度に伝達できさえすればよいわけで、人間の声の周波数特性からは、この観点では 8 kHz 以下のみしか使えなくても実影響はほとんどありません。が、8 kHz 以上の成分は音声の全体的な明瞭感(特に子音)に寄与している部分も大きく、同じ音声でも 8 kHz 以上がないと若干こもって聴こえてしまいます。
そんなわけで、Bluetooth 接続である以上、ある程度マイクからの音がこもるのはどの製品でも不可避 で、有線接続のマイクと比較すると音質面では絶対的に不利 です。
そういう制約が事実としてありはしますが、とはいえこの OpenComm のマイクは、通話特化モデルだけあって、日常のオンラインミーティングなどでも支障なく使えるものだと言えそうです。
OpenComm で音楽を聴く
音楽を再生したときの音質は、前回のエントリで言及している Aeropex のそれと大きくは変わらず、低音域はかなり減衰しますので、骨伝導方式でない同価格帯のイヤホンやヘッドホンと比較してしまうとお世辞にもよいとはいえません。とはいえもちろん、これも前回のエントリで書いたことではありますが、骨伝導方式である時点でそもそも音楽の再生能力 “のみ” で語るべき製品ではないので、このあたりわかって使うべき部分ですね。
なお、Aeropex とまったく一緒ではなく、低音側も高音側も、Aeropex よりも若干再生できる(聴こえる)レンジは広そうでした。中音域もやや穏やかになっていて、音のキャラクタも異なるようです。
まとめ
マイクの音質は 100 点ではありませんが、普段使いの気軽なヘッドセットとしては充分満足できる製品でした。有線接続のヘッドセットはそれはそれで取り回しが煩雑でもあったので、少しだけ音質を犠牲にしてフットワークの軽さを手に入れられたと考えれば、とてもよい買い物だったと思っています(Aeropex では犠牲が大きすぎてそもそもその選択ができなかったわけで……)。
骨伝導方式は、音を聴くために必要なコストが圧倒的に低く、音を気軽に聴く目的ではほんとうに快適です。もちろん、例えば音に集中したいときやきちんとした音質が必要なとき、外音を遮断したいときなどには、Aeropex であれ OpenComm であれ圧倒的に不向きではありますが、そこは最初から織り込むべきで、つまり目的やシーンに応じて別の適切なヘッドホンやイヤホンやマイクやヘッドセットを使い分ければよいだけです。その使い分けの選択肢の一つとして Aeropex や OpenComm を持っておくことは、個人的にはかなりアリなのでした。
もともと、テレワークでオンラインミーティングが繰り返されるようになり、毎回ケーブリングを気にするのに辟易し始めたのがワイヤレスヘッドセットを探し始めたきっかけでした。ワイヤレスヘッドセットというカテゴリでは Jabra や Plantronics(現 Poly)ほか各社選択肢がありますが、
- 持ち歩きたい(≒かさばるオーバヘッド型は避けたい)
- 両耳で聴きたい
- おまけ機能ではなくまともなマイクが付いていてほしい
- 耳を塞がないでいたい
な要件を満たせる製品はもはや OpenComm くらいしかなく、今回の購入に至った経緯があります。つまり、正直にいえば消去法的な買い方ではあったわけですが、結果的には、よい選択肢を日常に加えられて満足です。
なお、OpenComm は、Aeropex よりも防水・防塵性能が低く、マイクブームが稼働部品でもあるので、取り扱いがデリケートな感があります。OpenComm はオンラインミーティング用にして、Aeropex はトレーニングやながら聴き用にするなど、適宜使い分けていきたいです。